カスタードクリームのバニラ。炊き上げで香りを落とさない仕込み
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シュークリーム、タルト、ミルフィーユ。 カスタードクリームは、製菓店でいちばん多く炊かれるクリームのひとつです。
材料は牛乳・卵黄・砂糖・粉とバニラだけ。 香りをごまかす材料が無いので、バニラの差がそのまま出ます。
それなのに、炊き上がると思ったほど香らない。 その原因の多くは、アングレーズと同じつもりで扱っていることにあります。
アングレーズとの違いは「沸騰させること」
アングレーズは 82〜84℃で止めます。 卵黄が固まる手前で火を外すので、香りが抜ける時間は短くて済みます。 炊き方はアングレーズの炊き方と温度に書きました。
カスタードは違います。 粉(薄力粉やコーンスターチ)に火を通すため、沸騰させてからさらに炊きます。 粉臭さを抜き、とろみを安定させるのに欠かせない工程です。
バニラの香りは熱で揮発します。 沸いた状態を保つ時間があるぶん、アングレーズより香りは抜けやすくなります。 したがって対策は、炊く前にどれだけ香りを移しておけるかと、 炊いたあとに何で香りを抱えるかの二つになります。
牛乳1Lあたりの使用量
出発点は**牛乳 1L に 1〜2 本(3〜6g)**です。
| 使い方 | 目安 |
|---|---|
| シュー・タルトの主役として | 牛乳 1L に 2 本(約 6g) |
| ほかの風味と合わせる | 牛乳 1L に 1 本(約 3g) |
| 生クリームと合わせてディプロマットにする | 炊く段階で 2 本。のちに薄まるため |
1 本はおよそ 3g として計算していますが、さやの太さで重量は前後します。 仕込みは本数ではなく重量で管理してください。 用途ごとの使用量の一覧はバニラビーンズ1本は何グラムかにあります。
炊く前に浸出させる
さやを縦に裂いて種をこそげ取り、種とさやの両方を牛乳に入れます。
牛乳を 60℃前後に温めて火を止め、蓋をして 30 分置きます。 ここで沸かす必要はありません。 浸出に効くのは温度より時間です。
前日に仕込めるなら、温めた牛乳にさやを入れたまま、冷蔵で一晩置きます。 翌日に温め直して使えば、30 分の浸出より香りが深く入ります。 朝いちばんに炊く店ほど、この方法が仕込みの流れに収まります。
温度と香りの関係は バニラの香りは何でできているかで整理しました。
さやは炊く前に引き上げる
浸出が終わったら、卵黄に合わせる前にさやを引き上げます。
さやを入れたまま炊くと、ホイッパーで混ぜるうちにさやがちぎれ、 繊維がクリームに残ります。 鍋底に張りついたさやは焦げやすく、焦げた粒は種と見分けがつきません。
種は牛乳の中に残っているので、香りと見た目はそのまま引き継がれます。 引き上げたさやは、指でしごいて残った種を牛乳に戻してから外してください。
卵黄と粉を合わせて炊く
卵黄と砂糖をすり混ぜ、粉を加えてから温めた牛乳でのばします。 鍋に戻して強めの火で、底を絶えずこすりながら炊きます。
ふつふつと沸き、とろみがいったん重くなってから、ふっと軽くなる。 このコシが切れるところまで炊くのが基本です。
ここで香りを惜しんで火を弱めると、粉に火が通りきらず、 冷やしたあとに粉っぽさが残ります。 香りは浸出と仕上げで守り、炊く工程は炊く工程として必要なだけ炊いてください。
バターで香りを抱える
炊き上げて火から外したら、熱いうちにバターを加えます。
バニラの香り成分は油脂に溶けやすく、油脂の中にあると揮発しにくくなります。 炊き上がりのクリームにバターを溶かし込むと、 残っている香りを油脂が抱えた状態で冷やせます。
クレーム・ムースリーヌのように多めのバターを立てて合わせる場合は、 そのバターにも少量の種を練り込んでおくと、香りの立ち上がりが変わります。 焼き菓子で油脂に香りを移す考え方は 焼き菓子でバニラの香りを残すと同じです。
冷やして、提供する温度で確かめる
炊いたカスタードは、浅いバットに広げて密着ラップをし、急冷します。
香りの判断は、提供するときの温度でしてください。 冷えたクリームは、温かいときより香りを感じにくくなります。 鍋から味見して足りていても、冷蔵ケースから出したシューでは弱いことがあります。
冷たい状態で物足りなければ、次の仕込みで使用量を上限側へ寄せます。 エクストラクトを仕上げに少量足す方法もあります。 形態ごとの向き不向きは エッセンス・オイル・エクストラクト・ペーストの使い分けにまとめました。
大量に炊くとき
一度に 3L、5L と炊く店では、いくつか勝手が変わります。
- 鍋底が焦げやすい。 焦げた粒は種と区別がつかず、見た目の情報が崩れます
- 沸騰までに時間がかかる。 そのあいだも香りは抜けるので、浸出は少量のときより長めに
- 冷却に時間がかかる。 中心が下がりきるまで香りも衛生も不利になる。小分けにして冷やす
卵と乳を含むクリームなので、保存は冷蔵で、 当日から翌日までを目安に、店の衛生基準に沿って使い切ってください。
黒い粒を見せる
カスタードは白い生地に種の黒い粒がよく映えます。 シューやタルトの断面に粒が見えることは、それだけで「さやから仕込んでいる」説明になります。
ただし「バニラビーンズ使用」と表示するなら、実際にさやや種を使っていることが前提です。 表示の考え方は「バニラビーンズ使用」と書ける条件にまとめました。
引き上げたさやは洗って回す
浸出に使ったさやは、乳を含んでいるので洗ってから乾かします。 完全に乾けば、バニラシュガーや、 店内で使うエクストラクトに回せます。
カスタードを毎日炊く店なら、さやは毎日出ます。 回し先を決めておけば、1g あたりの実質の原価が下がります。 使用量が月に 500g 前後になる店は、 1kg にまとめると単価が下がります。
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