バニラの香りは何でできているか。温度・脂肪・酸で変わる理由
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同じさやを同じ本数使っているのに、商品によって効き方が違う。 配合を疑う前に、香りが何によって動くのかを押さえておくと、調整が速くなります。
バニリンだけではない
バニラの主要な香り成分はバニリンです。ここは間違いありません。
ただし、さやから見つかる香気成分は 数百種類にのぼるとされています。 バニリン以外の成分はごく微量ですが、 「バニラらしさ」と呼ばれる部分の多くは、そこにあります。
だから、バニリン単体を足しても同じにはなりません。 合成香料との違いが埋まらないのは、 足りないのが量ではなく種類だからです。
しかも、これらの成分は生のさやにはほとんど含まれていません。 収穫後に数か月かけて行う加工の過程で作られます。 その工程が価格に効いている話は バニラが高い理由に書きました。
香料製品との性格の違いは エッセンス・オイル・エクストラクトの使い分けに整理しています。
温度──出すためにも、失うためにも要る
香りは揮発することで感じられます。温度は、その速さを決めます。
低温では出ない。 冷たいものは、同じ量を入れても香りが弱く感じられます。 アイスやジェラートで使用量を上げる必要があるのはこのためです。 詳しくは ジェラートとアイスで、バニラの粒を見せるに書きました。
高温では逃げる。 焼成中に厨房が良い匂いになるのは、 生地から出ていった香りを嗅いでいるということです。
中間の温度が抽出に向く。 浸出は 60℃前後が扱いやすい範囲です。 沸騰させると、出ると同時に飛びます。 温めてから火を止め、ふたをしておく時間のほうが効きます。
| 温度帯 | 起きること | 使いどころ |
|---|---|---|
| 冷蔵(〜10℃) | ゆっくり移る。飛ばない | 前日からの浸出 |
| 60℃前後 | よく移る。飛びは少ない | 温浸出 |
| 沸騰 | 移るが同時に飛ぶ | 短時間に留める |
| 焼成温度 | 大きく失われる | 逃がさない工夫が要る |
脂肪──つかまえて、遅らせる
バニラの香り成分は水より油に溶けやすい性質があります。
脂肪が多い配合では、香りは脂肪に抱えられて揮発しにくくなります。 焼き菓子では利点ですが、口に入れたときの立ち上がりは遅くなります。
生クリームやガナッシュで「仕込み直後は弱い」と感じるのはこのためです。 体温で脂肪が溶けてから香りが出るので、判断は翌日にしてください。 ガナッシュでの扱いは チョコレートとバニラの合わせ方にまとめました。
逆に、脂肪の少ないシャーベットやゼリーでは、 香りは早く立ちますが、余韻が短くなります。
アルコール──いちばん効率よく引き出す
バニラの香り成分は、水よりアルコールによく溶けます。 エクストラクトが成立するのはこの性質のためです。
度数が高いほど抽出は進みますが、高ければよいわけでもありません。 さやには水分もあるので、水とアルコールが両方あるほうが幅広く引き出せます。 度数 35〜40 度の蒸留酒が使われるのは、そのあたりが扱いやすいからです。
仕込み方は バニラエクストラクトの作り方に書きました。 なお 自家製エクストラクトは酒類にあたる可能性があり、販売できません。 店内での調理に使う範囲にとどめてください。
酸(pH)──果物と合わせると印象が変わる
酸の強い配合では、バニラの印象が変わります。
レモンやパッションフルーツを合わせたクリームで 「バニラが消えた」と感じることがありますが、 多くの場合、消えているのではなく 酸の香りに覆われています。
対処は二つです。
- バニラを増やすのではなく、脂肪や糖の側で受け止める
- 酸を加えるタイミングを遅らせ、バニラを先に浸出させておく
酸を入れてから浸出させると、出方が変わります。 順番を変えるだけで解決することが多いので、量を増やす前に試してください。
糖と塩──感じ方の側を動かす
糖と塩は、香りそのものより 感じ方に効きます。
砂糖の多い配合では、バニラは甘い方向で認識されやすくなります。 砂糖を減らした配合に切り替えたときに 「バニラが弱くなった」と感じるのは、これが理由のことがあります。
塩をひとつまみ入れると輪郭がはっきりすることがあります。 アイスやキャラメルで塩を使う理由のひとつです。 ただし 入れすぎると香りではなく塩味が前に出ます。 1L に対して 1g 未満の範囲で試してください。
「香りが弱い」ときに疑う順番
現場で最も使う部分です。上から順に確認してください。
- 温度で判断していないか……冷たい状態で味を見ているか
- 時間が足りていないか……浸出は 30 分以上、前日からならなお良い
- 入れる場所が合っているか……水ではなく、油脂か糖に移せているか
- 酸が先に入っていないか……順番を入れ替える
- 香料入りの原材料と重なっていないか……クーベルチュールなどを確認する
- さや自体が乾いていないか……保管の状態を見る
- 量が足りていないか……ここまで見てから、初めて量を疑う
量から疑うと、原価だけが上がって解決しません。 順番を逆にしないでください。
保管も「成分の話」
香りが抜けた状態というのは、成分が空気中へ出ていった状態のことです。 密閉と温度の管理が効くのは、それを遅らせるためです。
冷蔵庫に入れないこと。 出し入れのたびに結露します。 保存の基本は バニラビーンズの保存方法に書きました。
使い切るまでの時間も同じ理屈です。 開封後は 3 か月以内に使い切れる量を目安に、サイズを選んでください。 100g から 1kg までの選び方は 業務用バニラビーンズの選び方にまとめています。
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