バニラが高い理由と、相場に振り回されない仕入れ
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バニラは、香辛料のなかでサフランに次いで高いと言われます。 その理由は品薄や流行ではなく、育て方と仕上げ方そのものにあります。
工程を順に見ていくと、価格の内訳が見えてきます。
花は年に一度、朝の数時間しか咲かない
バニラはラン科のつる植物です。 花が開くのは年に一度、しかも朝のわずか数時間だけ。
原産地のメキシコには受粉を担う生き物がいますが、 ほかの産地では人の手で受粉させるしかありません。 咲いた花を一輪ずつ、道具を使って受粉させていきます。
毎朝、畑を歩いて、その日に咲いた花を探す。見落とせば、その花はもう戻ってきません。 花期のあいだにこの作業をどれだけ続けられるかで、その年に穫れる量が決まります。
バニラが高いことの理由の多くは、この朝の時間に詰まっています。 機械化できず、人数を増やすしか方法がない工程だからです。
受粉から収穫まで9か月
受粉に成功した花は、さやになって伸びていきます。収穫まで、およそ 9 か月。
この時点のさやは青草のような匂いしかせず、 わたしたちが思い浮かべるあの香りは、まだどこにもありません。
早く摘めば軽くて扱いやすい。 けれど香りのもとになる成分が十分に蓄えられず、 あとからどれだけ手をかけても香りは出てきません。
畑の一年は、動いている時間よりも待っている時間のほうがずっと長い。 その間ずっと、日陰の量を調整し、つるを支柱に巻き直す作業が続きます。
香りは収穫のあとに作る
収穫した青いさやは、まず湯に通します。収穫後の変化を止め、ここからキュアリングが始まります。
日中は天日に広げ、夜は布に包んで寝かせる。 加熱、発汗、乾燥、熟成を繰り返すうちに、香りの主成分であるバニリンなどが少しずつ形成されます。 これに数か月かかります。
乾かしすぎればさやは折れ、香りは痩せる。水分を残しすぎればカビが出る。 その日の天気を見ながら判断を積み重ねる、いちばん神経を使う時間です。
つまり 受粉の朝から出荷まで、1 年以上が経っているということです。 工程の詳細は産地とつくり手に写真とともに載せています。
だから相場は動きやすい
ここまでを踏まえると、価格が動く理由も見えてきます。
作付けをすぐには変えられません。 相場が上がったからといって、来年から増産することはできません。 苗を植えてから収穫できるまでに数年、受粉から出荷まで 1 年以上かかるからです。
収穫は年に一度きりです。 その年に台風や乾燥があれば、量はそのまま減ります。 主要産地が特定の地域に集中していると、その地域の天候がそのまま世界の供給量になります。
買い手の動きが翌年以降に効きます。 買い手が来年も買うかどうかが、産地の側の計画をそのまま左右します。
需要と供給のどちらも、その年のうちには調整が効きません。 これが、バニラの価格が数年単位で大きく振れる理由です。
増産という選択肢が効かない
ほかの農作物なら、価格が上がれば翌年の作付けが増えて相場は落ち着きます。 バニラではこれが起きません。
苗を植えてから最初の花が咲くまでに 3 年前後かかります。 そこから受粉して収穫まで 9 か月、キュアリングに数か月。 いま植えた苗が売上になるのは 4 年以上先です。
高値を見て新規に植えた農家が増えたとしても、 そのさやが市場に出てくる頃には相場が下がっている、ということが起こります。 逆に安値が続いて畑を手放した農家がいれば、 数年後に供給が細ります。
価格の上下と、実際の供給量の増減が、数年ずれる。 これがバニラの相場が振れ続ける構造的な理由です。
香料との差をどう考えるか
バニリンは人工的に合成できます。 香料を使えば、原料費は比べものにならないほど下がります。
それでもさやを使う理由があるとすれば、 種の粒という 見た目の情報と、 単一成分では出ない香りの層です。
どちらが正しいという話ではありません。 すべての商品にさやを使う必要はなく、 差が出る商品にだけ集中させるという判断のほうが現実的です。
香料に置き換えた場合でも、表示は正直に書く必要があります。 さやを使っていないものを「バニラビーンズ使用」とは書けません。
買い手側にできること
相場そのものは動かせませんが、影響の受け方は変えられます。
必要量を数字で把握する。 月にどれだけ使うかが分かっていれば、いつまでに何を確保すべきかが決まります。 計算の仕方はバニラビーンズ1本は何グラムかに書きました。
収穫期に合わせて相談する。 必要な時期と量が決まっているなら、収穫期に合わせて確保できるよう早めに動くのが結局いちばん安く済みます。 足りなくなってから探すと、そのときの相場で買うことになります。
全部をさやで賄わない。 種を見せる商品にさやを集中させ、それ以外はエクストラクトやオイルで補う。 配分の考え方はエッセンス・オイル・エクストラクト・ペーストの選び分けにまとめています。
産地を一つに絞らない。 供給元が複数あれば、一つの産地の作柄に売上が引きずられにくくなります。
当店がインドネシアに目を向けたのも、この最後の点が理由のひとつです。 まとまった数量や継続的なお届けのご相談はお問い合わせから承っています。
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